
半年にわたり世界中の注目を集めた大阪・関西万博が、静かに幕を閉じました。
数千万人が訪れた会場「夢洲(ゆめしま)」では、かつての賑わいが嘘のように、いまは撤去作業の準備が進んでいます。
多くの人が胸に抱くのは、「あの巨大なパビリオンはどうなるのだろう?」という疑問です。
祭典の熱気が消えた今、現地ではようやく2025年秋に本格的な撤去作業が始まります。各国パビリオンの解体は、2026年4月中旬までに完了する予定です。
この記事では、過去の万博跡地の歩みと教訓、そして夢洲がこれからどんな未来を描こうとしているのかを、読み解いていきます。
万博会場がたどった3つの運命:解体・再利用・未来
万博が終わったあとの会場には、大きく分けて三つの運命があります。
ひとつは「完全解体型」
イベント終了後にすべての施設を撤去し、更地として再利用する方法です。
もうひとつは「再利用型」
一部の建物や設備を残して、公園や商業施設に転用する形です。
そして三つ目が「未完型」
明確な方向性が定まらず、施設が長く放置されてしまうケースです。
大阪・夢洲の跡地がどの道を歩むのかは、これから数年間の取り組みにかかっています。
いまはまさに、「次の未来」を決める岐路に立っているのです。
成功事例の秘密:愛知やロンドンの会場はなぜ愛され続けたか?
愛知万博(2005年)は、閉幕後の活用に成功した代表的な例です。
会場跡地は「愛・地球博記念公園」として整備され、現在は「ジブリパーク」として再び注目を集めています。
この成功の鍵は、「最初から終わりを設計していた」ことです。
万博の段階で、跡地の用途を見越した設計・インフラ整備が行われており、閉幕後の転用がスムーズでした。
同様に、ロンドンのドックランズ再開発やスペイン・セビリア万博の跡地も、住宅や会議場として生まれ変わりました。
成功の共通点は、短期的なイベントではなく、「未来のまちづくりプロジェクト」として位置づけていたことです。
失敗事例の教訓:なぜゴーストタウン化は避けられなかったのか?
一方で、華やかな舞台が終わった途端に「負の遺産」と化した例もあります。
2000年のドイツ・ハノーバー万博はその象徴で、閉幕後に施設が長期間使われず、維持費が財政を圧迫しました。
原因は明確です。
万博後の利用計画が曖昧で、訪れる理由がなくなってしまったのです。
イベントの成功に集中しすぎて、その後の“暮らしとしての価値”を設計できなかったとも言えます。
大阪が同じ道をたどらないためには、「閉幕した瞬間がスタート」という意識を持ち続けることが求められます。
大阪・夢洲の現在地と未来図:撤去作業から始まる次世代の街づくり
現在の夢洲では、万博閉幕後の撤去作業が始まった段階です。
2025年10月時点で各国パビリオンの解体準備が進行しており、2026年春までにすべての撤去を終える予定です。
会場内のほとんどの建築物は撤去対象となっており、恒久的に残されるのはごく一部です。
「大屋根リング」の一部(約200メートル)と、大阪ヘルスケアパビリオンの一部のみが現地保存・再利用の方針です。
そのほかの施設や展示館は撤去され、土地の再整備が行われます。
なお、しばしば混同される「統合型リゾート(IR)」は、万博跡地そのものではなく、隣接する第1期区域での整備計画です。
開業は2030年を目標としており、万博跡地とは別の開発スキームになります。
夢洲の南部では、長期滞在型リゾートや国際展示エリアなどの構想も検討されていますが、現時点ではまだ複数案のひとつであり、正式な決定には至っていません。
つまり、「夢洲の未来図」はまだ描きかけの状態なのです。
パビリオンは誰のもの? 撤去と資材のゆくえという舞台裏
万博会場に並んだ各国パビリオンは、原則として各国自身の負担で建設・撤去されます。
閉幕後は、各国が自らの責任で解体作業を進め、現地の施工業者と協力して撤去を進める形です。
資材の再利用や転用については、今後の検討課題です。
過去の万博(ドバイや上海など)では、資材の一部が他国施設や教育機関へ再利用された例がありますが、2025年大阪万博における具体的な再利用先はまだ確定していません。
環境配慮や循環型社会の観点から再資源化の動きは進む見通しですが、その詳細は今後の報告を待つ必要があります。
表には出にくい撤去工程の裏側にも、サステナブルな挑戦が始まっているのです。
レガシーを「一過性の夢」にしないための継続的な課題
万博が真に評価されるのは、閉幕直後ではなく「数年後に何が残るか」です。
レガシーとは、施設そのものだけでなく、人のつながりや地域の成長を含む、目に見えない財産、でもあります。
夢洲の再整備が進む中で問われるのは、地域・企業・行政の協働です。
市民が訪れたくなる空間として再生されるか、企業が持続的に関わる仕組みを作れるか。
そして何より、「万博を体験した世代が、未来をつくる当事者として関わり続けるか」。
その姿勢こそが、大阪万博を単なるイベントで終わらせない最大の鍵になります。
大阪万博の「未来の地図」はこれから描かれる
大阪万博の閉幕は、決して終わりではありません。
2025年の祭典が残したものは、建物よりも、人々の記憶と意識の変化です。
夢洲の土地は、これから数年をかけて再整備され、新しい都市としての姿を探っていきます。
過去の万博が示してきたように、真のレガシーとは“時間とともに成熟していくもの”です。
華やかなイベントが終わった今こそ、静かな変化が始まっています。
大阪が世界に誇れる「未来のまち」となるかどうか――それは、これからの私たちの選択にかかっています。

