「関西万博、思ったより人が来ていないらしい」
そんなニュースが流れたのは、会期の序盤でした。
けれども、終盤には連日20万人を超える日もあり、結果的にはかなり多くの人が訪れました。
最終的な入場者数は、2025年10月13日時点で約2,529万人(速報値)。これは、2005年の愛知万博(2,205万人)を上回る数字です。
ただし、主催者が想定していた約2,820万人には届きませんでした。
つまり「失敗」ではないけれど、「期待には少し届かなかった」というのが実情です。
その理由を、単に「チケットが高い」「アクセスが悪い」で終わらせずに考えてみたいと思います。
万博が直面した「3つの壁」
入場者数が目標に届かなかった背景には、単純な理由ではなく、
社会の空気や人々の暮らし方の変化が大きく関係しています。
その中でも大きかったのが次の三つです。
- 建築の遅れと費用の高騰が生んだ不信感
- 魅力はあっても伝わらなかった情報の壁
- コロナ以降に変わった生活のリズムと価値観
これらが重なって、「行きたいけれど、今じゃなくてもいいかな」という気持ちを生んでいったように思います。
第1の壁:建築遅れと費用高騰が招いたネガティブイメージ
開催前から、会場の建設遅れや予算の増額が何度も報道されました。
そのたびに「またか」「大丈夫なのか」と思った人は少なくないでしょう。
お祭りのようなワクワク感よりも、「お金がかかりすぎている」「ちゃんと完成するのか」といった不安が先に立ってしまった。
そうしたニュースが続くうちに、「行って応援しよう」という気持ちよりも、「距離を置こう」という空気が生まれてしまいました。
この時点で、まだ始まる前から期待より不信感が勝っていたのかもしれません。
第2の壁:コンテンツの魅力と情報発信のギャップ
万博では、各国パビリオンや未来技術の展示、子ども向けの体験プログラムなど多彩な内容がありました。
しかし、その魅力が十分に伝わっていなかったのは否めません。
パンフレットやサイトには情報がありましたが、一般の人にとっては「結局どんな体験ができるの?」という疑問が残ったままでした。
特に若い世代には、「難しそう」「自分には関係なさそう」という印象を与えてしまった面もあります。
一方で、後半にはSNSで「夜間ライトアップがきれい」「パビリオンの演出が想像以上」といった口コミが増え、来場が一気に伸びるきっかけになりました。
情報が早く、わかりやすく、心に届く形で広まっていれば、もう少し違った結果になっていたかもしれません。
第3の壁:ライフスタイルの変化と他の選択肢の台頭
コロナをきっかけに、休日の過ごし方が変わりました。
混雑を避けたい、できれば近場でのんびりしたい、という人が増えています。
さらに今は、他にも魅力的なイベントがたくさんあります。
地域のフェス、テーマパーク、オンラインの展示会、地方旅行など。
「わざわざ万博に行かなくても楽しめる」時代になったのです。
万博は「一生に一度の体験」という特別感を打ち出すのが難しく、結果として「後でもいいかな」「人が減ってから行こう」と思う人が多かった。
会期の序盤が静かだったのは、こうした心理の影響も大きかったと考えられます。
チケットとアクセスの「誤解」もあった
多くの人が「チケットが高い」「アクセスが悪い」と感じていました。
確かに、家族で行くと1万円を超えることもあり、出費は小さくありません。
ですが実際には、夜間割引券や団体向け割引、学校招待などもあり、価格設定にはある程度の幅がありました。
アクセスについても、会場までは電車やシャトルバスが整備されており、ピーク時を除けば比較的スムーズに移動できるよう工夫されていました。
それでも「遠い」「面倒そう」という印象が強く残ってしまったのは、アクセス情報やお得なチケットの情報が十分に伝わっていなかったからでしょう。
万博の集客戦略に足りなかった「共感」と「切迫感」
最終的に足りなかったのは、「共感」と「今行かなければ」という感覚でした。
万博のテーマである「未来社会の実験場」は立派でしたが、「それが自分の生活とどう関係あるのか」が見えにくかった。
共感が生まれないと、人は心を動かされません。
また、「今しか見られない」「今行かないと後悔する」と思わせる仕掛けも弱かった。
実際、終盤になってSNSで話題が広がると来場者が急増したことからも、人の心を動かすタイミングの大切さがわかります。
万博が私たちに残した教訓とは?
関西万博の入場者数は、過去の愛知万博を上回りました。
それでも「もう少し届かなかった」ことには理由があります。
それは、規模や技術よりも「人の気持ちを動かす力」が欠けていたこと。
どんなに大きなイベントでも、「自分のために行く理由」が見つからなければ、
人は動かないということです。
そしてもう一つ大切なのは、「行かなかった人」をどう受け止めるか。
そこには無関心ではなく、「なんとなく気が向かなかった」「よく分からなかった」という声が多くあります。
その声こそ、次のイベントづくりに活かすべきヒントなのかもしれません。
数字の裏にある「声」に耳を傾ける
関西万博の入場者は約2,529万人。
歴史的に見れば大成功とも言えますが、想定には少し届かず、課題も残りました。
その数字の裏には、「行った人」「行かなかった人」それぞれの理由があります。
それは、チケットの値段でも、アクセスの問題でもなく、「自分にとっての意味が見えなかった」という素直な感覚かもしれません。
人が動くのは、共感したとき、そして心が少し揺れたときです。
万博が残した経験は、次の時代のイベントづくりにきっと生きるでしょう。