退職代行サービス「モームリ」を運営する株式会社アルバトロスが、警視庁の家宅捜索を受けました。
「退職の代行をしているだけなのに、なぜ警察が?」と感じた人も多いのではないでしょうか?
今回の捜査の焦点は、「弁護士へのあっせん(紹介)と報酬の授受」という点にあります。
つまり、退職希望者を弁護士に紹介し、その見返りとして報酬を受け取っていた疑いがあるということです。
この仕組みは、弁護士資格のない事業者が報酬目的で弁護士業務に関わる行為として、弁護士法で明確に禁止されています。
この記事では、モームリ事件の背景と、なぜ「弁護士あっせん型の退職代行」が問題視されているのかを解説します。
また、退職代行を安全に利用するための注意点も紹介します。
なお、本記事は、ニュース報道の内容を一般向けに分かりやすく解説することを目的としており、捜査や関係者の違法性を断定するものではありません。
退職代行サービスとは何をしてくれるものか?
退職代行とは、本人の代わりに「会社を辞めたい」という意思を伝えるサービスです。
上司に直接言わずに辞められるため、精神的な負担を減らせるというメリットがあります。
ただし、一口に退職代行といっても中身はさまざまです。
弁護士が運営する「弁護士型」と、一般の会社が運営する「民間型」に分かれます。
表向きはどちらも「退職の意思を伝えるサービス」ですが、法律上の扱いは大きく異なります。
弁護士が行う場合は、法的な交渉や助言も合法的に行えます。
一方で、弁護士でない業者が交渉や法的相談をすれば、弁護士法に抵触します。
そして今回のモームリ事件では、「弁護士に依頼者を報酬目的であっせんした」ことが疑われており、この構造そのものが法律違反の可能性を問われているのです。
モームリのニュースで何が起きたのか?
警視庁がアルバトロス社を家宅捜索した背景には、二つの疑いがあるとされています。
一つは、退職代行の依頼者を弁護士に有償で紹介し、報酬を受け取った疑い。
もう一つは、退職の通知に加えて会社とのやり取り(交渉)があった可能性です。
現在の報道では、特に前者の「あっせんと報酬授受」が重視されています。
つまり、「退職したい人→モームリ→弁護士」という流れをビジネス化し、弁護士に案件を紹介して紹介料(キックバック)を受け取っていたのではないか?、という疑念です。
モームリ側は「当社は退職の意思を伝えるのみで違法性はない」と主張しています。
しかし、警察は「単なる通知」にとどまらない実態があった可能性を調べている状況です。
現時点では、捜査は進行中であり、最終的な判断は司法の手に委ねられています。
弁護士法違反とはどんなことを指すのか?
弁護士法違反とは、弁護士資格のない人が、報酬を目的に弁護士の業務を行ったり、弁護士業務をあっせんしたりすることを指します。
「非弁行為」と呼ばれ、明確に法律で禁じられています。
この非弁行為には二つの類型があります。
一つは、弁護士でない者が交渉や法律相談などを行うこと。
もう一つは、弁護士でない者が報酬を得る目的で弁護士に依頼者を紹介・あっせんすることです。
つまり、退職代行の現場では「交渉型」と「紹介型」の両方で違法性が問われる可能性があります。
今回のモームリ事件では、後者の「紹介型」、つまり弁護士への有償あっせん構造そのものが問題視されています。
弁護士法は、弁護士と依頼者の関係を健全に保つためのルールです。
報酬を目的とした仲介ビジネスが広がると、法律相談が「お金の流れで左右される」危険があるため、厳しく規制されています。
どこまでなら退職代行が合法なのか?
合法とされる範囲は、「退職の意思を本人に代わって伝えるだけ」にとどめることです。
つまり、「〇日に退職します」「今後の連絡はメールでお願いします」といった事実の伝達であれば問題になりません。
一方で、「退職金を支払ってください」「有給休暇を消化させてください」といった交渉や、弁護士への紹介と報酬の受け渡しを行う行為は、弁護士法違反に該当する可能性があります。
このため、退職代行を利用する際には「どこまでの対応をしてくれるのか」を必ず確認する必要があります。
「弁護士が監修しています」などの表示があっても、実際に弁護士が直接関与していないケースもあります。
契約前に運営形態と報酬構造を確認することが、最も重要なリスク回避策になります。
弁護士が行う退職代行との違い
弁護士による退職代行は、法的トラブルを前提とした業務が可能です。
たとえば、退職金の未払い、損害賠償請求、退職強要などが起きた場合でも、弁護士なら交渉・請求・和解といった手続きを適法に行うことができます。
これに対して、一般業者の退職代行は「伝達」しかできません。
弁護士への紹介を有償で行うことも禁止されています。
つまり、弁護士でない業者が「弁護士を紹介します」「別料金で法的対応します」などと案内していれば、それ自体が弁護士法違反のリスクをはらんでいるのです。
安全に辞めたい人ほど、弁護士が直接運営しているサービスを選ぶのが確実です。
費用は高めでも、法的な裏づけがあり、万一のトラブルにも安心して対応してもらえます。
利用者が気をつけるべきチェックポイント
今回のモームリ事件では、利用者自身に法的責任が問われる事例はまだ確認されていません。
しかし、弁護士会などは「利用者も巻き込まれるおそれがある」と注意を呼びかけています。
退職代行を利用する際は、次の三点を必ず確認しましょう。
- 運営会社が弁護士事務所または弁護士監修であるか?
- 弁護士への紹介を有償で行っていないか?
- 契約内容に「交渉」「助言」といった文言が含まれていないか?
これらを確認せずに契約すると、思わぬトラブルや情報流出などに巻き込まれる可能性があります。
口コミだけを信じず、運営元の実態と契約条件を自分の目で確かめることが大切です。
安全に退職代行を利用するためのまとめ
退職代行は、働く人を守るために生まれたサービスです。
しかし、その仕組みを誤ると、運営側だけでなく利用者も法的トラブルに巻き込まれるおそれがあります。
モームリ事件は、「弁護士へのあっせんビジネス」という新しいモデルが法のグレーゾーンを超えたのではないか、という問題を浮き彫りにしました。
利用者としては、
- 交渉ではなく伝達のみを依頼する
- 弁護士資格や監修体制を確認する
- 紹介料や報酬の流れを明確にする
この三つの原則を守ることが、安全に退職代行を使うための鍵になります。
まとめ
今回のモームリ(アルバトロス)家宅捜索は、退職代行業界全体に警鐘を鳴らす出来事です。
弁護士でない業者が行う「交渉」だけでなく、「弁護士への報酬目的あっせん」も弁護士法違反に該当するという点は、今後の業界構造を大きく変える可能性があります。
退職代行自体は、正しく運営されていれば合法であり、多くの人にとって救いの手です。
しかし、「便利さ」と「違法の境界線」が混ざり合った現状では、利用者の理解と慎重な判断が欠かせません。
正しい知識を持ち、安全なサービスを選ぶことが、あなたの人生を守る第一歩です。